税理士の藤本です。今回は、前回に引き続き、農業への管理会計導入について書いてみたいと思います。
前回は管理会計導入のおおまかな方法とメリットを紹介しましたが、今回は実際に管理会計を導入している農家さんを取り上げて、より具体的な方法とメリットについて書いてみたいと思います。
まず、前回のおさらいをしてみます。管理会計導入のメリットとは、「現場をデータによって見える化し、それをもとに比較検証し(考え)、改善に向けた行動を起こすこと」でした。農業においてもっとも見える化すべきものは、作物ごとの原価です。作物ごとの原価がわかることによって、どの作物が利益を出しているのか、あるいは反対に赤字なのかがわかります。そこで、そのデータを比較検証することで課題が浮かび上がり、その課題を解消するための具体的な行動を起こすことが可能となります。つまり、「見える化」→「考える化」→「行動化」というサイクルが回り始めるわけです。このサイクルを継続的に回し続けることで、業績は向上していきます。また、データを基に比較検証する際に、農作業に従事するメンバーでミーティングを行うことで、メンバーの意見や考えを出し合い、主体的に改善活動が生まれるというメリットもあります。
さて、では早速、実践例を紹介していきたいと思います。紹介するのは十勝地方の畑作農家(仮称T農場)です。T農場では7種類の作物を収穫しています。タマネギ、甜菜、小豆、手亡、金時、馬鈴薯、秋まき小麦です。
作物ごとの原価を集計するためのステップは以下のとおりとなります。
1.作業日報の記録
2.変動費(種苗費、肥料代、農薬代、資材代)の作物別集計
3.労務費の作物別集計
4.その他経費(修繕費、地代、水光熱費等)の作物別集計
となります。以下、順を追って見ていきましょう。
1.作業日報の記録
作業日報は手書きでも良いのですが、記録やあとからの加工集計作業にかなりの労力を費やすことになります。それを克服するため、今回はアグリノートという農業専用の作業日報アプリを活用しました。アグリノートでは自分のスマートフォンから圃場ごとに作物を指定し記録することが可能です。また、労務費だけでなく、肥料代、農薬代、資材代、機械作業時間なども圃場別(作物別)に記録することが可能です。スマートフォンから入力されたデータはそのままエクセルに吐き出すことができ、作物別に集計するなどの加工作業がとても簡単におこなえます。
2.変動費の集計
変動費(肥料代、農薬代、資材代)についてはアグリノートのデータによって、圃場(作物)ごとの使用料が記録されており、そこから集計しました。また、種苗費については今回アグリノートで記録していなかったため、別途クミカンデータから作物別のデータを拾い上げました。
3.労務費の集計
労務費ついては、アグリノートの作業記録データによって作物別の作業時間を集計しました。また、青色申告決算書の人件費から賃率を計算しました。
4.その他経費の集計
その他経費については、クミカンデータもしくは確定申告の青色申告決算書データから費目別の年間経費を拾いあげたのち、作付面積や労務費等の割合によって配賦(按分)する方法をとりました。
データベース側からまとめますと、次のようになります。
A:アグリノートから集計するもの・・・労務費、変動費(種苗費を除く)
B:クミカンデータから集計するもの・・種苗費、その他経費
C:青色申告決算書から集計するもの・・労務費(賃率)、その他経費
上記で作物別に集計した費用を収穫量で割ると、キロ当たりもしくは反当たりの原価が求められます。これを販売単価から差し引くことで、作物ごとの利益が算出できます。
T農場の7品目のキロ当たり作物原価はそれぞれ20円~473円となりました。中には過去の感覚でとらえていた原価と乖離するものもありました。また、原価の構成要素明細がすべて手許にあることから、例えば、甜菜のどの作業でどの費用がどれくらいかかったかという明細を分析することで、改善のポイントが見えるようになります。(図1~6参照)
このように、専用アプリを活用することで、以前よりはるかに楽に原価計算をすることが可能となります。また、これらのデータを持っている経営体とそうでない経営体では大きな差がつくでしょう。是非、管理会計の実践を推進していただきたいと思います。
税理士の藤本です。今回は、管理会計を農業経営に導入するメリットについて書いてみたいと思います。
とはいえ、「管理会計ってなに?」と思われた方も多いのではないでしょうか?管理会計ということばからは「管理するための会計?」「なんだか堅苦しそうだな」という印象を持たれたのではないでしょうか?
管理会計はアメリカ発祥で、英語ではマネージメント・アカウンティングといいます。つまり、本来の意味は「マネージメント(経営)のための会計」で、「経営に役立つ会計」なのです。いっそ「経営会計」とでも訳していればもっと多くの経営者に活用してもらえたのではないかと個人的には思います。
前置きが長くなりましたが、私は、中小企業(農業含む)に管理会計を導入するコンサルティングを10年以上やってきました。その経験から、管理会計は、中小企業に導入することで大きなメリットをもたらすことができると確信しています。管理会計は経営に役立つ情報(データ)を活用し、会議体を開いて意見交換することで会社を内部から変革する強力な力をもっています。それを別のことばで言うと「見える化」→「考える化」→「行動化」というサイクルが会社のなかで回りだし、結果として業績が改善するということです。
では、畑作農家を例にとって見ていきましょう。畑作農家で管理会計を使って「見える化」するもっとも代表的なものは「原価」です。原価とは、その作物を出荷するまでにかかったすべての費用のことをいいます。原価がわかれば、作物ごとにいくら儲かっているかがわかります。つまり、「売上高」-「原価」=「利益」ですから、作物ごとの原価がわかれば差引で利益もわかることになります。ところが、原価をきちんと捉えて経営に生かしている農家は多くはありません。なぜでしょうか?それには二つの理由があります。まず、第一に原価を集計する方法がわからないという点です。第二は、原価を集計する方法がわかったとしても、原価の集計には手間がかかるために導入に躊躇する点です。
では、原価の集計方法を具体的に見ていきましょう。
まず、出荷までの作業には、土づくり、肥料をまく作業、播種、草取り、収穫、選果、梱包、出荷等があります。これらの活動ごとにデータを集計していきます。例えば、肥料であれば、圃場ごとにまいた肥料の種類ごとの数量と金額です。また、土づくり、播種、草取り、収穫の作業であれば、それぞれ、作物ごとの作業時間が該当します。作業時間は作業者ごとの日報をつけることで集計します。また、選果作業では、良品率(外品率)が集計できます。
まとめると以下のようになります。
① 種代と肥料代・・・作物ごとに紐づけて集計する。共通の肥料は作付面積で按分。
② 各種作業代 ・・・作業ごとの個人の日報をつけて、作物に紐づけする
③ 共通作業代 ・・・作物ごとに紐づけできない作業は、②の時間比で按分する
④ その他の経費・・・③と同様に②の時間比で按分して作物ごとに紐づけする
⑤ 規格外品率 ・・・作物ごとに外品率を集計する
いかがでしょうか?ポイントはかかった費用を作物ごとに紐づけすることです。費用によっては簡単に作物に紐づけできないものもありますが、そのような費用は一定の比率で按分して紐づけします。①~⑤を集計すると原価がわかります。例えばニンジンの原価が高かったとしましょう。その場合、上記①~⑤のどの部分で原価がかかっているのかを追跡することが可能です。追跡の結果、草取りの時間が多いということがわかれば、その原因を追究し、対策を打つことができるのです。また、外部に販売する場合には、いくらで売れば採算がとれるのかがわかります。
また、原価計算で得られた現場データをもとにスタッフと一緒にミーティングを行うことをお勧めします。データという客観的な数字があることで、会議が実のあるものになります。数字を見て、スタッフ一人ひとりが意見を出し合うことで、改善策が出てきます。改善策が出れば、あとはそれを地道に実行するのみです。経営にとって良いことを行動に移すのですから、業績が良くならないわけがありません。
私の経験から言って、手間暇をかけた以上の効果は間違いなく出てくることは保証します。農業は自然相手の経営なので計画通りにものごとが進むことはないでしょう。しかし、だからこそ、数字で実績を管理することによって「見える化」することが重要と思います。管理会計は北海道の農業経営にとって力強い味方となると確信しております。ぜひ、根気よく、手順を踏んで導入していただきたいと思います。